負荷試験とは

まずは非常用発電機の負荷試験の目的について説明します。

 

非常用発電機は、火災などが原因で停電してしまった場合に自動起動し、消火設備に電力を供給することで人命を守る目的で設置されている設備であり、消防法で点検が義務付けられていて、その点検項目の一つに負荷試験があります。

 

非常用発電機は非常用というように停電しなければ使われない設備です。

 

点検時に数分間無負荷でエンジンを回すだけなので、設置後20年以上経っている発電機でも、総運転時間が3時間程しかないような発電機も多いのが現状です。

 

この数分だけの無負荷運転というのが曲者で、起動するかの確認やエンジン内にオイルを回すというメリットはあるものの、エンジンが温まる前に停止してしまう為に、内部に燃え残りの燃料や不完全燃焼で発生したススが溜まってしまうというデメリットがあり、長期的にみるとエンジンの不調の原因になってしまいます。

 

そこで、運転中に負荷をかけることで、負荷をかけた状態でも停止せずに動き続けるかの確認や、エンジン内部の温度を上げ、燃え残っているススを排出し、コンディションを改善するのが負荷試験の目的となります。

 

負荷試験の今までの経緯

なぜ負荷試験は行われてこなかったか?

 

これは点検票を負荷試験未実施の状態で消防に提出しても問題なく受理されていたからだと私は考えています。

 

消防設備点検業者の中でも負荷試験がどういうものか知らない人は多く、点検票の負荷試験の欄には/を引いて提出すれば問題ないというのが共通認識でした。

 

2017年頃から少しずつ話題になり始めた負荷試験ですが、昔から消防に提出する非常電源(自家発電設備)点検票の中には実施項目として存在していました。※昭和50年10月16日消防庁告示第14号(別表第24及び別記様式第24))で1年に1度、消防設備の総合点検時に行うと定められています。

 

その当時は負荷試験を行ったことがある施設を探す方が難しいような状態で、非常用発電機を設置している施設の担当者の方にお話をしても、現場の方に必要性を理解していただけても、オーナー様には無駄な費用は出せないと言われることが多く大変苦労しました。

 

しかし、震災で非常用発電機が作動しなかった事例がきっかけとなり、負荷試験が行われていなかったことが議会質問で議論されたり、新聞で負荷試験が行われていない実態が記事になるなど話題になりやっと問い合わせも増えてきます。

 

それ以降消防では点検票受理時に負荷試験は行われているのかを確認し、行われていない場合は指導される事が増えたことで、負荷試験の実施例も増えてきています。

 

そんな中、平成30年6月1日に交付された「平成30年消防庁告示第12号」により、非常用発電機の負荷試験は実施周期の見直しが行われました。

 

これは、負荷試験又は内部観察を行い、翌年から毎年予防的な保全策を行えば、負荷試験又は内部観察は6年に1度でよいというものです。改正内容を分かりやすく説明したパンプレットはこちら

 

改正内容は負荷試験のみだったものが内部観察の選択肢が増えたり、毎年だったものが予防的な保全策を行えば6年に1度でよくなったりと、私は最初決まりがゆるくなったような印象を受けました。

 

しかし何もしなくてよくなったわけではなく、毎年負荷試験や内部観察や予防的な保全策どれかを行わなければならない現状では、消防のチェックがしっかりと行われるようになった分、むしろ厳しくなったようです。

 

内部観察や予防的な保全策の施工金額が高止まりしている昨今、毎年負荷試験を行わないといけないことに変わりはないようです。

 

その結果2021年時点で4度目の負荷試験を実施した施設も出てきており、弊社では負荷試験の実施件数は大幅に増えました。しかし、まだ負荷試験を行っていない施設も多く、消防の指導は続いています。

 

用語解説

負荷試験

発電機に負荷をかけて異常がないか確認する試験で、模擬負荷試験と実負荷試験がある。

 

無負荷運転

発電機のエンジンをかけただけの状態。発電機の発電量は0kW(車で例えるとアイドリングで停車している状態)
発電機が起動するかの確認ができ、エンジン内にオイルを回すことができるため数か月に一度数分の無負荷運転をする施設が多い。

 

負荷運転

発電機に接続した負荷(負荷装置や消火ポンプ等)を作動させる事により発電機が発電している状態(車で例えるとアクセルを踏んで走っている状態)

 

 

模擬負荷試験

発電機を運転中に模擬負荷装置を作動させ、定格出力の30%以上の負荷運転を行い、異常がないか確認する試験。
停電時の既設の負荷(消火ポンプ等)の連動を確認することは出来ないが、負荷を自在に調整できることに加え、施設を停電させる必要がない為、いつでも実施可能である事がメリット。

 

実負荷試験

商用電源を停電させ、非常用発電機が自動起動し、負荷(消火ポンプ等)を作動させることにより発電機に負荷をのせる試験。
負荷容量が定格の30%にも届かない場合があり、発電機の性能確認が完全ではないが、既設負荷の連動が確認できる点がメリット。

 

定格出力の30%以上

負荷試験の点検要領において、負荷試験は発電機の定格出力の30%以上の負荷をかけると規定されている。
非常用発電機を設置する場合、必要な負荷の約3倍の容量の発電機を設置するのが一般的であるため、定格出力の30%以上で異常がなければ非常時に問題なく稼働できるとの考えがある。

 

予防的な保全策

潤滑油、冷却水、燃料・潤滑油フィルター、Vベルト、蓄電池などの適切な交換や、予熱栓、点火栓、冷却水ヒーター、潤滑油プライミングポンプ等の点検を行うこと。
負荷試験は発電機エンジン内部に溜まったススを排出して発電機のコンディションを良くするという目的があるが、予防的保全策は潤滑油交換などをすることでコンディションを悪くしないという目的がある。

 

内部観察

潤滑油や冷却水の成分分析やシリンダ内部の観察などを行い、異常がないことを確認すること。
平成30年6月1日の見直しにより、負荷試験か内部観察の2種が提案されたが、実施要領を正しく行おうとすると、発電機のオーバーホールのような手間と時間とお金がかかる為、あまり実施されていないのが実情。

負荷試験装置

L-3-1
1台で28kWの負荷をかけることが可能です。

 

 

L-3-2
大型発電機の負荷試験の場合は装置を連結させて負荷試験を行います。
この場合は28kW×5台=150kWまでの負荷をかけることが可能です。

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